統合報告書とは?作成する目的や記載項目、事例を解説

統合報告書とは?作成する目的や記載項目、事例を解説

マーケティング・販促

統合報告書は、財務情報と非財務情報を統合したレポートです。自社の価値創造プロセスを開示して、事業への共感と将来への期待を育むのが目的です。情報開示の対象は、投資家のほか、取引先や社員などあらゆるステークホルダーが対象となります。今回は統合報告書の概要や作成のポイントなどについても解説します。

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統合報告書とは

統合報告書とは、財務情報と非財務情報を統合した上で、企業の組織と戦略・ビジネスモデル・ガバナンスなどを統合的にレポートしたものです。

そして、「企業価値の持続的成長可能性(サステナビリティ)」について、投資家をはじめとするすべてのステークホルダーに、期待と共感を深めてもらうためのコミュニケーション・ツールです。

アニュアルレポート、有価証券報告書など他の報告書との違い

企業が発行するコミュニケーション・ツールには、多種多様なものがあります。

発行する義務があるコミュニケーション・ツールもいくつかあります。上場企業であれば、有価証券報告書の作成・開示は法律で義務付けられていますし、決算短針なども証券取引所のルールで開示が求められています。

一方で、任意ではあるけれど、開示が望ましいとされているコミュニケーション・ツールもあります。

アニュアルレポート/年次報告書や、CSRレポート、サステナビリティレポートなどがそうです。

従来からあるこうしたコミュニケーション・ツールは、比較的財務情報に比重をおいているものが多いといえます。

しかし、統合報告書はどちらかといえば、非財務情報の比重が高くなる傾向にあります。あるいは、非財務情報が、財務情報にどのように影響を及ぼすのかについて明確化することが求められることもあります。

統合報告書の「統合」は、まさに非財務情報と財務情報の統合という意味合いです。しかし、その内容については、非財務情報に重きがあるという点で、従来の多くのコミュニケーション・ツールと一線を画しているといえるでしょう。

統合報告書が今求められている理由

今日の経済は、モノ中心からコト中心、すなわち経済のサービス化が進展しています。産業構造自体が、第3次産業の割合が高くなっています。これは世界的潮流といえます。

これを企業競争の観点でみれば、付加価値の差で競争しているともいえます。自動車の基本機能は走る・止まる・曲がるの3つだけです。どの自動車メーカーの自動車も、この3つの機能を十分に備えています。その上で、速く走れる・革張りの豪華なシートがあるといった付加価値で差別化して、競争優位を獲得しようとしています。

その付加価値競争の究極がブランド価値です。ブランドは無形の資産です。サービス中心の経済にシフトしたことで、有形資産よりもブランド価値のような無形資産のほうが、企業価値創出の源泉として重要になってきているのです。

無形資産は、企業のバランスシート(貸借対照表)には表れにくいものです。経済のサービス化が進展し、企業が無形のブランド価値で競争するようになると、財務情報だけ見ていても、その企業の真の価値、つまり企業価値は判断がつかなくなっているのです。

その一方で、今日の企業はESGやSDGsについての取り組みが、製品やサービスによって生み出す価値以上に重要視される時代になっています。

どんなに付加価値の高い製品・サービスを市場に投入しても、その生産過程・提供過程で環境に負荷を及ぼしている企業のモノは買われなくなります。エシカル消費です。企業として、ESGやSDGsへの取り組みについて適切に開示することの重要性がここにあります。

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統合報告書を作成する目的

すでに触れた通り、統合報告書を作成する目的は、すべてのステークホルダーに(自社の)企業価値の持続的成長可能性を理解してもらうことです。

もっといえば、自社のビジネスモデルや提供可能な企業価値を理解し、共感した上で、その成長可能性(将来性)に大きく期待してもらうこと。そして投資してもらうことを目的としています。

端的にいえば、発行元企業が将来にわたって企業価値を持続的に成長させることが可能であると、すべてのステークホルダーに確信してもらうことが、統合報告書の目指すゴールといえます。

統合報告書の記載項目

前述の通り、統合報告書は発行義務のあるコミュニケーション・ツールではありません。ですから、発行する場合でも、何を取り上げるかは比較的自由です。

ただし、統合報告書の作成にあたっては、さまざまな作成ルールがあります。大元になるのは、「IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)」が策定したフレームワークです。

IIRCとは、「統合報告(Integrated reporting)」の開発・促進を行っている、世界的な非営利組織です。日本では、経済産業省が策定・公表した「価値協創ガイダンス」などがあります。

また、統合報告書に記載すべき事項のうち、中心的なものは次の通りです。

【項目の一例】

  • 経営理念
  • 経営戦略
  • ビジネスモデル/価値創造プロセス
  • 歴史・沿革
  • ESG・SDGsへの取組み など

 

こうした中心項目に付随して、中長期の経営計画や財務情報を盛り込んでいきます。

統合報告書を作成するポイント

統合報告書を作成する上での重要なポイントは、2つあります。

価値創造プロセスの明示

1つめは、“自社がどのような事業活動プロセスを経て、価値創造(利益獲得)を実現しているのか”を表す「価値創造プロセス」の明示です。

企業活動とは、財務資本や知的資本などさまざまな資本をインプットし、それらが価値を創造するプロセスのことです。その価値創造プロセスで生産された価値を、さらに資本としてインプットし、価値創造プロセスの中で増大させていく仕組み。それがサステナブルな価値創造プロセスであり、企業価値の源泉となります。「価値創造プロセス」の明示とは、このプロセス、仕組み、それを具現化している企業の強みを明らかにすることです。

統合報告書としてのストーリー性の構築

そして2つめが、「価値創造プロセス」を、すべてのステークホルターに正しく理解してもらうための、統合報告書自体のストーリー性の構築です。

たとえば、その企業が掲げる企業理念が事業遂行の拠り所であり、それがあるから「価値創造プロセス」が機能しているのなら、企業理念を説明し、それを堅持し続けてきた企業の歴史・沿革を説明します。その上で、今現在の「価値創造プロセス」を説明すれば、ストーリーとしての有機的なつながりが理解できます。

統合報告書は、有価証券報告書のような厳格なフォーマットがないので、何をキー・テーマとして読者に伝えるのかによって、統合報告書としてのストーリーが変わってきます。どんなストーリーを構築するかが、理解を促進し、共感を生み、期待につながる統合報告書を作成する上での重要なポイントのひとつとなるのです。

統合報告書の事例

最後に統合報告書の事例を紹介します。

石油資源開発株式会社

石油や天然ガスなどの探鉱・開発・生産に事業として取り組む、石油資源開発株式会社の統合報告書(20223月期)です。

まずは「巻頭ストーリー」として、経営理念・倫理行動規範や沿革を紹介しています。

次に社長メッセージで成長戦略を示し、企業価値創造プロセスの説明へとつなげて、長期ビジョンと絡めた戦略説明を展開しています。

さらに、事業分野別の価値創造プロセスの説明と、ESG・SDGsにまつわる説明につなげ、最後はエビデンスとしての「財務ハイライト」で締めくくるという構成です。

オーソドックスな構成ですが、随所に役員や社外取締役など「人」が登場することで、企業としての誠実さが表現された理解しやすい統合報告書になっています。

まとめ

現在のところ、統合報告書は作成義務がありません。日本の上場企業においても、マジョリティといえるほどには普及しているとはいえません。

しかし、昨今の経営環境に鑑みれば、これから統合報告書は、有価証券報告書やアニュアルレポートと並ぶ、標準の開示情報になると考えられます。そうした動きに遅れをとることがないように、できるだけ早い段階で統合報告書の作成に着手することを考えてみてはいかがでしょうか。

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