シリーズコラム/コンテンツ製作の現場から【児童書コンテンツ】前編

シリーズコラム/コンテンツ製作の現場から【児童書コンテンツ】前編

出版

出版市場はいま大きな変革の最中にあります。

相次ぐ書店の閉店など厳しい現状が伝えられる一方で、今までにはなかった価値の提供とスピード感で新たなビジネスモデルが生まれているのもこの市場の特徴です。

激変する市場に対応するために、今日も当社の「コンテンツ製作の現場」は動いています。本コラムは、変化する市場に対する当社の取り組みを知っていただく内容として、シリーズでお届けします。

 

第2回【児童書コンテンツ】前編
絵本作家、編集者、装丁家の「こだわり」に最大限寄り添う。子どもたちの感性を育む印刷の力を信じて

厳しい状況が続く出版業界の中で、児童書に関しては好調に売上を伸ばしています。絵本や図鑑、学習漫画などを含めた売上は、2021年には前年の4%増を記録。紙市場において書籍が15年ぶりの増収となった要因とも言われています。

少子化で子供の数が減っているにも関わらず、なぜ、児童書は売上を伸ばし続けているのか。その理由については、以前に当社コラム「絵本市場のいま」でも述べていますが、業界全体を盛り上げようとする推進活動やイベントの開催、新たな作家や作品の登場、コロナ禍による巣ごもり需要などさまざまあります。

こうした堅調な児童書市場において、図書印刷はどう貢献しているのか、存在感を示しているのか。【児童書プロジェクト】のリーダーである営業企画部の鶴巻義一郎氏、プリンティングディレクター(以下PD)として活躍する池浦宏治氏、商材開発の立場から児童書を盛り上げる秋山直己氏に話を聞きました。今回取材に応じてもらった3人は、共に児童書プロジェクトのメンバーであり、それぞれが児童書、絵本に対して熱い想いを持っていました。

児童書プロジェクトで、出版社と一緒にこの分野をもっともっと盛り上げていきたい

まず、図書印刷が取り組んでいる【児童書プロジェクト】について、2016年からプロジェクトリーダーを務める鶴巻氏に語ってもらいました。

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鶴巻義一郎
図書印刷株式会社
情報デザイン統括 営業企画部
児童書プロジェクト リーダー

「売上確保ももちろん一つの目的でもあるが、そのために何が必要かと考えていくと、ブランドを確立していくことが重要になってくる。当社にとって児童書分野は【図書】という社名や、メイン工場の沼津工場の生い立ちや設備面から見ても【特別】な意味を持っています。単純に出版社様からの受託製造を行うだけではなく、児童書、絵本づくりなら図書印刷だ、というブランドを確立するため、この組織横断型のプロジェクトが発足しました」

児童書プロジェクトのブランド確立のための具体的な活動としては3つの柱があり、①児童書、絵本づくりに関連する技術開発、商材開発、②出版社、作家様との絆を大切にした情報媒体の発行やイベント開催、③毎年GWに開催されている「上野の森親子ブックフェスタ」への協賛と出展などを行っています。

「どの活動も、当社が主体となって児童書や絵本分野の発展に繋がると思って動いているものです」と鶴巻氏。

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今年のGWには、コロナ禍で休止していた「上野の森親子ブックフェスタ2022」が開催され、図書印刷も3年ぶりに出展。同イベントは、児童書の普及のために子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団の主催で、コロナ禍以前は毎年行われていました。今回、久しぶりの開催となりましたが、以前と変わらぬ盛況ぶりを見せ、開催3日間で約26,000人が来場。70以上の出版社を中心とするブースで児童書のセールと絵本作家さんのサイン会、読み聞かせイベントなどが繰り広げられ、販売も好調だったようです。

その中で図書印刷は【あなたの知らない絵本づくりの世界】というコンセプトでブースを展開。親子連れのお客様を中心に、【スプレック】などのサンプルを用いて多様な本づくりの面白さをお伝えしたり、講談社様の協力によって巨人本(超特大サイズの『巨人用 進撃の巨人』)の特別展示も行いました。

参加したスタッフによれば、「現場での盛り上がりから児童書、絵本の人気ぶりや可能性を感じられた3日間だった」そうです。

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上野の森 親子ブックフェスタ2022 図書印刷ブースの様子

新規参入が起爆剤に
児童書・絵本の好調なワケはここにもあった

上野の森のイベントでも垣間見えた児童書の好調ぶりは、絵本の人気が高いことに加え、ここ数年の図鑑ブームも追い風となっていることもあるようです。そもそも図鑑は、コンテンツの蓄積がないと制作するのは難しく、また予算もかかるため、新たな参入がしにくい分野であると言われてきました。それが近年、複数の出版社様の改訂新版や新規参入がある意味で起爆剤となり、ムーブメントを起こしたと考えられます。

新規参入という視点なら作家にもそれは当てはまるのでは、と言うのはPDの池浦氏。これまでは、絵本を描くのは画家や絵本作家でしたが、現在は、さまざまなジャンルの人が絵本を手がけるようになりました。お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣氏が描いた『えんとつ町のプペル』の大ヒットは、皆さまの記憶にも新しいことでしょう。こうして「書き手が増えたことによって間口が広がったことも、好調を支えるひとつの要因だと思います」と池浦氏。「書き手、特に別ジャンルからの参入は、デジタルファーストという環境も後押しした」と言います。当コラムの第1回「コミックコンテンツ」の中でも挙げたように、この分野も一部の作家の作品が世に送り出される紙の時代から、誰もが気軽に絵本を作り、発信することのできるデジタルの時代へ変化してきています。その流れが、絵本の裾野も広げているようです。

デジタルの時代に欠かせないプリンティングディレクターという存在

たしかに絵本の分野でも、音声や動画を使ってスマホやタブレットPCで視聴するタイプのデジタルコンテンツはすでに多くが流通していて、市場への影響力が今後もっと強まる可能性はあります。ただ依然として絵本分野においては「紙」が主体なのは事実です。その理由は作り手側の問題ではなく、読み手側の「絵本への期待」や「絵本との向き合い方」というところにあるように思えます。少なくとも作り手側の制作環境はコミック同様にデジタルに移行しつつあり、今後も加速していくと思われるからです。

そんな環境の変化で、当社の中でさらに重要性が増したポジションがあります。それが、PDです。PDとは、作家や編集者が思い描くイメージやこだわりを印刷物で再現する人。インキや紙、製版、刷版、印刷などあらゆる工程に精通するプロフェッショナルでもあります。

現在、PDとして多くの絵本制作に関わっている池浦氏は「絵本作家にとって、または編集者にとって、色はとても重要なファクターです。だからこそ、作家が望む最大限を表現したいし、そのために努力は惜しみません」と言い切ります。

しかし、制作環境がデジタルに変わり、作家がモニターで見ている発色を、そのまま紙の印刷で再現するのはかなりの難題です。光の三原色を色の三原色でどこまで表現できるかが勝負になるのだと。もちろん、色の再現は、デジタルだけの問題ではなく、紙に書いた原画においてもしばしば生じます。そうした際、インキや紙といったマテリアルを変えるなど、これまでの経験や知識を元にしたアイデアを絞り出すのはPDの腕の見せどころです。ただし、コストやスケジュールという縛りの中で100%完璧とはならない場合もあり、「ここが限界値である」と見極めて作家や編集者を説得するのもPDの役目。できないことは正直に話しつつ、決められた予算と期日の中で何ができるかをしっかり伝えることが大切だ、と池浦氏は言います。そのため「最初の打ち合わせから参加して、なるべく絵本作家や編集、装丁家の言葉や意向を丁寧に拾い上げます。作り手の気持ちを汲み取り、その思いに寄り添うことを大切にしています」と。では、「作り手の思いに寄り添う」とは具体的にどういったことなのでしょう。

作り手に寄り添う本づくりには
大切にしていることを見極める目が必要

「まず、最初の打ち合わせの段階で、作家や編集者が何を大事にしているかを見極めることがポイントになってきます」と池浦氏。

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池浦宏冶
図書印刷株式会社
品質保証本部 品質管理部
プリンティングプロモーショングループ

「こうした目線は、営業では補えない部分です。PDがいる意味、そして、最初から打ち合わせに参加してもらう意味が、ここにあります」と言うのは鶴巻氏。予算や納期ありきで考えがちな営業とは違う目線、より作り手に近い目線があるからこそ、良い信頼関係も築けるのだと。

池浦氏は、信頼を築くうえで大切なステップは「最初の打ち合わせ」にあって、具体的には「キーになる色やキャラクターなど、その本の最も重要なパーツが何かを掴むことが大切です。そのキーとなるパーツを作り手のイメージに最大限近づけることを念頭に、話し合いを進めていきます。このファーストステップがとても重要で、一冊の本を組み立てていくうえの基本となります

すべてのこだわりを完璧に再現するのは難しいとしても、キーカラーやキービジュアルがブレなければ、作品全体を通して作り手の想いを表現できる、というのが池浦氏の信条。だからこそ、「ファーストステップは慎重に取り組みたい」と。

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絵本っていいね!

当社が製作に携わった特徴的な絵本を一冊取り上げて、当社のプリンティングディレクターや製本コンシェルジュが出版社様の編集の方々や作家の方々と一緒にどんな本づくりをしていったかのプロセスが掲載されています。

こうした丁寧なものづくりができるのも、児童書だからこそ。制作スパンの短い本とは違い、児童書は比較的、長い制作スパンの場合が多く、作り込みができる余裕があります。それは、そのままPDが活躍する場面の多さであるとも言えます。

デジタルでは表現しきれない
紙だからこそできることがある

ここまで、紙の本づくりを中心に話を伺ってきましたが、デジタル時代となり、児童書のあり方も変わっていくのでしょうか。PDの目線から池浦氏に語ってもらいました。

「すぐにデジタルに置き換わる、とならないのが、児童書だと思います。ある意味、デジタルでは表現しにくいものが含まれる分野だと言ってもいいかもしれません」その理由を、池浦氏はこう説明します。

「人には五感があります。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つのうち、味覚以外のすべてが紙の本、絵本にはあるんです。目で見るのは言うまでもなく、触ってページをめくり、紙やインクの匂いを感じ、自分で音読したり、読み聞かせをしてもらったりと聴くこともできます」

その中にはデジタルで表現できる部分もあるけれど、形があるからこそ伝わるものがある、と池浦氏。

「感覚を大切にすることで、想像力や発想力は豊かになります。それは、子どもたちにとって非常に大切なことだと思います。味覚以外の四感を刺激してくれる絵本が子どもにもたらすものを守っていくことも、私たちの重要な役割だと思います」

ここまで、色や表現を中心に児童書を見てきましたが、児童書や絵本が、味覚以外の五感を育むという意味において、もう1つ大切なファクターがあります。紙という形があるからこそできること。形状や製本の視点から考える児童書のあり方と未来についても考えてみたいと思います。 ≪後編に続く≫

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