シリーズコラム/コンテンツ製作の現場から【コミックコンテンツ】

シリーズコラム/コンテンツ製作の現場から【コミックコンテンツ】

出版

出版市場はいま大きな変革の最中にあります。

相次ぐ書店の閉店など厳しい現状が伝えられる一方で、今までにはなかった価値の提供とスピード感で新たなビジネスモデルが生まれているのもこの市場の特徴です。

激変する市場に対応するために、今日も当社の「コンテンツ製作の現場」は動いています。本コラムは、変化する市場に対する当社の取り組みを知っていただく内容として、シリーズでお届けします。

第1回【コミックコンテンツ】
急激に、大きく変化するコミック業界を柔軟性と対応力で裏から支えていく

2020年にコミック市場の推定販売金額が6000億円を突破し、過去最高値を記録したというデータがあります。2021年はさらに最高値を更新。その原動力となっているのが、電子コミック市場の拡大です。

すでに4000億円を突破する市場となった電子コミックの多くは、スマホで読まれています。それを踏まえ、スマホで読みやすいWebtoon、いわゆる縦ヨミマンガがここ数年で急増。今や、コミック市場の中心を担う勢いで成長しています。

コマがなく、オールカラー。これまで長く親しまれてきた「漫画」とは異なるWebtoonの席巻は、コミックの現場にどんな影響を与えているのか。そして、大きな変革期を迎えたコミック業界の中で、図書印刷はどんな役割を担っていくのか。プリプレス本部長の若林充康氏、コミックグループ課長の皆田良夫氏に話を聞きました。

デジタルファーストの時代へ
業界の変化とともに広がるコミック関連ソリューション

電子コミックと紙コミックの推定販売金額が逆転したのは2019年のこと。その要因はいくつもありますが、若林氏は「圧倒的な作品数が電子コミックの強み」だと言います。

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若林充康
図書印刷株式会社
プリプレス本部

かつてはコミックが世に出るまでに何段階ものステップがあり、そこで淘汰されずに勝ち残った作品が送り出されてきました。しかし、電子コミックの場合はそうした選定段階はほとんどありません。これまで水面下にあったであろうものも含め、どんどん新たな作品が量産されていきます。その中で人気のない作品は切り捨てられていきますが、人気の出た作品は複数のマンガアプリで配信され、より多くの人の目に触れてさらに人気が高まるという好循環に。そこからアニメや映画、ゲームなどメディアミックス化を果たす作品もあり、時には、電子から紙のコミックスへという流れも出てきました。まずはWEBでコミックを配信する『デジタルファースト』の潮流が存在感を増してきた、と言えそうです。

こうしたコミック業界の変化の中、図書印刷の中でコミック制作を担うプリプレス本部の作業範囲は「確実に広がった」と現場を仕切る皆田氏は言います。これまでなら漫画家や編集が行っていたような作業、たとえば、レイアウト(コマ割り)やカラーリングなども請け負うようになったこと。そして、膨大なデータとして蓄積されている過去の名作に新たな価値をつけて再利用する新たな事業が生まれつつあること。また、クライアントが出版社だけでなく、WEB配信会社などIT系企業が増えてきたことで、制作工程のステップや流れも変わりつつあるのだとか。コミック業界で今起こっている変革は、紙から電子へという単純なものではないようです。では、具体的にプリプレス本部の作業はどのように変わったのでしょう。

韓国からやってきた「Webtoon」という黒船がコミックの常識を根底から覆す

コミックがデジタルファーストとなった現在、その中心を成すのが「Webtoon」。韓国発祥の「Webtoon」は縦スクロール型の漫画で、スマホで読むことに特化した新しい漫画の表現です。従来のコミックは1ページの中でコマ割りがされており、読者の目線はS字を描くように右上から左下へと流れていくのが自然でした。しかし「Webtoon」で見る読者の視線はほぼ直線。むしろ、目線は動かさずにスクロールすることで画面を動かしていくのが特徴と言えるでしょう。

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皆田良夫
図書印刷株式会社
プリプレス本部メディアプロダクツ部
コミックグループ

紙のコミックと「Webtoon」ではサイズが違うのはもちろんですが、それ以上に大きく違うのは、こうした表現方法です。だからこそ、Webtoonを手掛けるようになった当初は、戸惑うことも多かったと皆田氏は言います。

1ページで見せる紙と、スクロールで見せるWebtoonでは、間の作り方がまず違います。たとえば、戦闘シーンは間を詰めて早い展開で見せる。逆にゆったりした時間の流れを見せたいシーンでは間を十分に取るといった感じです。その他にも、コマの強弱の付け方や背景の使い方、吹き出しの位置もまったく違ってくるので、慣れるまでは少し苦労しました」

 

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図書印刷では紙媒体のマンガの縦スクロール化(横→縦作業)
縦スクロールマンガの書籍化(縦→横作業)からネーム入力、画像 修正等の様々な依頼に対応。

 

主に縦横比が異なる紙のコミックとWebtoon。そのため、従来のスタイルで描き起こされた原稿は、スマホの画面サイズにレイアウトし直す必要があります。しかし、皆田氏曰く、「具体的な指示はなくて、どう見せるかはこちらの判断で」ということだったそうで、本来なら漫画家が行うはずの「コマ割り」というクリエイティブな制作工程を、製版の現場が請け負うことに。

「私たちの作業範囲が広がったのは確かです。今やオペレーターにはレイアウトのセンスも求められています」

チーム全体で情報共有
時代の変化に柔軟に対応していく

新たな作業工程を伴う大きな変化を、実際に現場の人々はどう受け止めているのでしょう。すると皆田氏は「だいたい3~4年くらいのサイクルで作業内容は変わっていくので」と、さほど大きな問題はないと言います。特にここ最近はデジタル化によって変化のスピードも早くなっていて、それについていけるかどうかが、このチームで仕事をしていく条件になるのだとか。「うちは変化に強いんです」と皆田氏は胸を張ります。

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現在、皆田氏が所属するプリプレス本部メディアプロダクツ部コミックグループには26名が在籍しています。そのチーム全体で、紙のコミックも電子コミックも、Webtoonもすべて手掛けていると言います。
若林氏によれば、「他社さんでは、それぞれが部門に分かれて、紙のコミックなら紙だけとか、Webtoonなら縦ヨミだけという風に専門チームを組んでいる場合が多いと思います」。図書印刷のように同じチームが全て請け負うのはレアケースのようです。

「人によって得意分野や役割分担はありますが、チーム全体で情報共有をしています」と皆田氏。たとえば、確認作業をする人員は、紙でも電子でもWebtoonでも同じく確認作業を行います。

「作業に分担や専門はありますが、紙や電子、Webtoonといった媒体の垣根はありません」

時代のニーズに合わせて新たな手法を取り入れ、柔軟に変化に対応していく。その一方で、従来の手法を手放すことなく、融合させていく。それが、変化に強いチームの真髄のようです。

対応力と総合力が図書印刷の強み
紙の実績を活かした新たな展開も視野に

コミック業界全体を見れば、電子コミック、とりわけWebtoonの台頭が著しく、この流れは今後ますます加速していきそうな勢いです。しかし、この先、図書印刷がデジタルに特化していくかといえば、そうではなくて、それはむしろ幅を狭めることになると、若林氏は考えています。現場レベルで言うなら、現在、横ヨミを縦ヨミに変換していく作業が増えていますが、今後は逆のケースも出てくるだろうと言います。

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Webtoonで売れたものを紙のコミックにというケースも出てきています。やはりクリエイターにとって、自分の本が書店に並ぶというのは、ある種ステイタスを感じさせるものなのだと思います」

つまり、縦ヨミを横ヨミに変換する作業が増えれば、紙の基本を知っている図書印刷は非常に有利だと言うのです。

横ヨミから縦ヨミという一方通行ではなく、どちらの方向でも対応できる。何を依頼されてもこなせる対応力があると自負しています。
何でもできる総合力。それが、我々の強みです」

さらに、長年、紙のコミックを扱ってきたという実績は、現場での優位性だけに留まりません。自社が保有する大量のデータに新たな価値付けをして再利用するという新たなビジネスチャンスの可能性も秘めています。

1つは、過去の名作に色付けをして新たにWebtoonとして生まれ変わらせること。Webtoonは基本オールカラーですが、日本の過去の名作たちはほとんどがモノクロの原稿です。そこに着色をするには、漫画家さんのこだわりや出版社側のチェックなど、クリアすべき部分は少なくありませんが、需要は大きいと若林氏は考えています。現場を預かる皆田氏は「いかに効率よくカラー化できるかが勝負だ」と。漫画家さんのこだわりとビジネスのバランスを考える必要が出てくるだろうと言います。

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我々は縁の下の力持ち
印刷会社として存在感を示したい

過去データの新たな価値づけ、再利用といった意味では、画像変換やマルチ出力など、図書印刷の技術を活かしたソリューションにも注目してほしいところです。データを拡大することで生じる画像のガタツキを解消し、特大ポスターや販促用パネルの他、紙以外の媒体に出力することも可能な技術は、眠っているデータに新たな価値を生み出すことも可能です。また、新たな宣伝手法として急増している漫画動画。これも、過去のデータの活用例として、今後は力を入れていきたい分野です。さらに、NFT(Non-Fungible Token)への対応も前向きに考えていると若林氏は言います。

「たとえば、コミックの何巻の何ページの何コマ目、と指定をしてもらえれば、我々はすぐにそれを出すことができます。そこにNFTを付けることで新たな価値が生まれます」

そういった新たな可能性を出版社とともに探っていくことが、これから我々に求められる部分だと考えています。

「あくまでも印刷会社である我々は縁の下の力持ち。自分たちが率先して前に出ていくのではなく、クリエイター、出版社、読者、皆さんに喜んでもらえるようなアウトプットを裏で支えていく存在になれたらと思っています」

サブスク全盛の音楽業界でレコードが見直されているように、ますます電子コミックが主流となっていくコミック業界でも、改めて紙のコミックが再評価されることもあるかもしれません。そういう意味では、デジタル化の一方通行ではなく、デジタルとアナログの双方向を目指す図書印刷は、変化していくコミック業界の中でしっかりとした存在感を示していきたいと考えています。

図書印刷はお客様の課題解決を支援します

図書印刷は、印刷技術を核として幅広いサービス・製品を提供し、お客様のコミュニケーションを支援しております。

「コンテンツの世界観に合わせた、魅力的なグッズをつくりたい」
「ユニークな装丁のアイデアが実現できるか相談したい」
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…など、お客様がお持ちの課題に合わせて、サイズや色づかい、さまざまな特殊な用紙、印刷、加工、製本方式などを組み合わせて、お客様のアイデアの具現化を支援いたします。
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