出版社によるソーシャルメディア活用事例

出版社によるソーシャルメディア活用事例

出版

新型コロナウイルス流行の影響もあり、現在、企業のプロモーション施策は大きく変わりつつあります。「体験」や「リアルイベント」よりも、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)といったデジタルメディアやツールを用いたプロモーションにシフトしています。その変化の大波は、出版業界にも到来しています。

今回は、ソーシャルメディアの代表的なサービスを踏まえつつ、さまざまな出版事業のプロモーション成功例をご紹介いたします。

知っておきたいソーシャルメディアの基本

ソーシャルメディアとは、インターネットを利用して気軽に情報発信をし、双方向のコミュニケーションができるメディアです。代表的なものとして、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNS、YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイト、LINEなどのメッセージングアプリがあります。

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)

SNSは、登録したユーザー同士が交流できるウェブサイトの会員制サービスのことです。多くのSNSでは、ユーザーが自分のアカウントを持ち、自分のプロフィールや写真、情報を公開します。主なサービスには、Twitter、Facebook、Instagram、LinkedInなどがあります。

動画共有サイト

インターネット上のサーバーに投稿された動画を視聴できるウェブサイトのことを、動画共有サイトといいます。主なサービスには、YouTubeやニコニコ動画、ツイキャス、TikTokなどがあります。

メッセージングアプリ

メッセージングアプリとは、モバイル端末向けのインスタントメッセンジャーのことです。テキストや画像、動画などのチャットや無料通話が可能です。日本ではよく使われているLINEやFacebook Messengerなどのほかに、Skype、WhatsApp、WeChatなどがあります。

出版社がソーシャルメディアを活用する有効性

今や人々の情報収集や情報発信に欠かせなくなったソーシャルメディアですが、上手に活用することで、出版事業においても好影響をもたらすことができます。それではまず、出版社がソーシャルメディアでの反響にすばやく柔軟に反応して、実際の売上に結びつけた例をご紹介いたします。

30年以上前の本がTikTokで話題に!?

作家・筒井康隆さんの『残像に口紅を』が、刊行から30年以上経っているにもかかわらず、2021年になって急に何度も版を重ね、十万部を超える増刷部数となりました。

そのきっかけとなったのは、15秒のショートムービーを投稿できるTikTok。若者を中心に人気のある動画共有サイトです。小説を紹介している人気TikTokerのけんごさんが本書の感想をアップしたところ、その直後にAmazon日本文学ランキングで1位となり、各ネット書店で売り切れが続出しました。版元である中央公論新社も、けんごさんの投稿への反応(いいね数や再生回数)、そして全国書店からの発注を受けて、すぐに重版を決定したそうです。

TikTokというメディアの特性を生かしたけんごさんの動画は、ショートムービーに合った言葉選びや話し方もさることながら、インパクトのある文字の入れ方、テンポのよい画面の切り替え方などが人気の秘密。プレゼンテーションが巧みで観る者を飽きさせない工夫が凝らしてあります。また、若者らしい感性による新しい解釈で提示することで、その本を知らなかった人たちに向けて、世代やジャンルを超えて魅力をアピールすることに成功しています。

このように、新規の読者を獲得するには、ソーシャルメディアの活用が大きな力を発揮します。ソーシャルメディア全盛時代にあって、読者は企業の宣伝広告や有名人の推薦よりも、お気に入りのインフルエンサーや信用できる友人知人など自分に近い存在からの口コミを重視するからです。また、ソーシャルメディアでの話題や通販サイトでの売上にはリアル書店も注目するようになっており、書籍発注やフェア展開につながることも増えています。

出版社もSNSや動画共有サイトでの盛り上がりを一過性のものとして見過ごさず、読者の反応をいつも観察しながら、機会を逃さずにプロモーションに結びつけるのがよさそうです。

ソーシャルメディア活用で成功した3つの事例

ソーシャルメディアをさまざまな方法で活用することで、より効果的なプロモーションを行なうことができます。ソーシャルメディア活用で成功している出版社の例を紹介します。

人気YouTubeチャンネルとタッグを組んだダイヤモンド社

ダイヤモンド社は、ベストセラー『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』に続き、『シリコンバレー式超ライフハック』(デイヴ・アスプリー著)を発売する時に、人気YouTube「学識サロン」で動画配信するというプロモーションを行いました。ビジネス書を中心に扱う「学識サロン」では、アニメーションを使って書籍の内容をわかりやすく解説しています。このときは、本書の内容を「【最強の1冊】すぐに実践できる超凄いライフハック! 11分でわかる『シリコンバレー式超ライフハック』」と題して動画配信、そしてダイヤモンド社のウェブサイト「ダイヤモンドオンライン」でアニメーション制作過程の裏側を紹介。5万回以上視聴されて、反響を呼びました。

このようなプロモーション方法は、社会に影響を与えるインフルエンサーを利用したマーケティングのひとつといえます。さまざまなSNSの普及によって、文章だけでは表現しきれなかったビジュアル的な情報を手軽に発信できるようになり、インフルエンサーによる表現方法も多様化し、その可能性は拡大しています。インフルエンサーマーケティングを成功させるポイントは、記事「インフルエンサーマーケティングとは?効果を出すポイントと事例」でも解説しています。

感想ツイートへの返礼から新聞広告へと盛り上げた平凡社

平凡社が2018年に刊行した『有職装束大全』(八條忠基著)は、朝廷や公家社会、武家の儀式などで使われた衣装や持ち物をビジュアルと文章で紹介した内容で、価格は7,480円(税込)。長い時間をかけてじっくり売るはずの専門書が、漫画やアニメ、ゲームなどのイラストを描く“絵師”と呼ばれる人たちの感想ツイートで大きな話題を呼び、版を重ねています。

出版社が感想ツイートに乗じるのはこれまでにもよくあることでしたが、平凡社のレーベル「平凡社ライブラリー」のTwitter公式アカウントは、より積極的な行動に出ます。きっかけとなる最初のツイートをした絵師に「このツイートのおかげで、重版が決まりました」とお礼を述べ、「いい本をつくれば読者はちゃんと見てくれている…そんな当たり前のことにとても励まされました」などとツイートすると、「Twitterで書籍が必要な人にきっちり届いた」など共感のコメントが寄せられました。著者本人がお礼を伝えるためにTwitterデビューするなど、盛り上がりは止まりません。その結果、平凡社はツイートを使用した新聞広告を掲載し、さらなる重版につなげたのです。

ソーシャルメディアを活用することで、多くの人々の目に触れるようになり、共感が共感を呼ぶことで効果的なプロモーションへの第一歩となり得ます。一方で、炎上してしまう可能性や、盛り上がっても一部に留まってしまい、実際の売上に結びつくともかぎらないという懸念もあります。『残像に口紅を』の例からもわかるとおり、自然発生的な出来事に対して、出版社がスピーディーかつ柔軟に対応するためにも、いざというときにどう動くべきかを考えておくとよさそうです。

ウェブ版のPR誌としてnoteを利用して話題をつくった早川書房

海外文学やSF・ミステリでは定評がある早川書房は、TwitterやFacebook、Instagramなど複数のSNSで公式アカウントやページを作成・運用し、ソーシャルメディア創成期から多くの読者の支持を集めています。古くから「早川書房」というブランドにファンが多い出版社だけに、コミュニティを形成するSNSとの相性は良いといわれますが、各SNSの特徴によって内容を変えるなど、SNSに携わる社員が相当な工夫をしていることが伺えます。

注目すべきは、コンテンツ配信サービス「note」を使った発信です。ウェブ版のPR誌という位置づけで、新刊書籍や雑誌の紹介、フェアやキャンペーンの案内などを行っています。プロモーションの一環として、書籍の一部、ときには全文を掲載することもあります。そうしたコンテンツが更新されると、早川書房の複数のSNSで、たびたび拡散されます。

緊急事態宣言下の2020年4月、48時間限定でスタートした『コロナの時代の僕ら』(パオロ・ジョルダーノ著)の全文公開は、大きな話題となりました。早川書房や翻訳家、担当編集者のSNSで告知されると、海外文学ファンを起点とする幅広い読者の感想がTwitterを中心に拡散されて、主要メディアでも取り上げられるきっかけとなりました。

複数のSNSの公式アカウントやページを使いこなすのは簡単なことではないですが、それぞれの特性を生かして運用し、会社や書籍、SNSのファンに向けてさまざまな発信を続けていくことが重要ではないでしょうか。

ソーシャルメディアのフォロワーを活用した広告メディアの例

そのほかにも、ソーシャルメディアには、さまざまな可能性があります。フォロワーを活かして、広告メディアとして運用している出版社もあります。今回は、講談社の例をご紹介いたします。

ファン・コミュニティを使ったマーケティングのできる講談社のメディア

女性に人気がある美容やトレンド誌を多数発行している講談社は、そのブランド力を生かしたオンラインでも情報発信を積極的に行っており、各メディアのSNSに長年育ててきたファン・コミュニティを持っています。紙の本誌、ウェブサイト、SNS、連携メディア、アプリなどさまざまな方法によって、読者へのリーチが可能です。そのため、SNSマーケティングを行える広告メディアとしても活用しています。

コスメ好きたちに根強く支持され、強力なコミュニティを持つ『VOCE』では、VOCESTと呼ばれる読者代表が「美YouTuber」としての訓練を受けて、公式インフルエンサーとして活躍しています。新作の発表会やイベントに出席し、最新の美容情報などの発信も行います。最近の読者はモデルや芸能人だけではなく、自分に近い存在である「マイ・インフルエンサー」を求めるようになっています。VOCESTは、そうした読者に向けて商品の宣伝などにも一役買っているのです。そうしたなかから「バズコスメ」と呼ばれる、入手困難になるほど売れる商品が出てきています。

また、20~30代の働く女性を読者層に持つ女性メディア『with』では、年間3500時間あるファンデーション使用時間を「ファンデーションを塗りながらケアできる時間に」する資生堂ジャパンの新商品のPR「with肌磨きプロジェクト」に取り組みました。3500名のwithLabメンバーとともに、商品のリポートや概要を本誌、ウェブサイト、SNSで発信。with Onlineでも、各エリアのwithLabメンバーたちがファンデーションを動画でリポート。平均滞在時間は3分を超える反響がありました。

このように、SNSは出稿する企業側にとって効果測定を明確にできるというメリットがあるため、優れた広告メディアとして機能させることも可能です。出版社もSNSの運用に成功すれば、広告獲得のチャンスを広げられるのです。

ソーシャルメディアを活用した作家の発掘や育成の例

新人作家の発掘や育成にも、ソーシャルメディアが使われ始めています。作家・翻訳家の西崎憲さんが取り組んでいる「ブンゲイファイトクラブ」では、「ファイター」が書いた作品を提出し、「ジャッジ」と呼ばれる選考委員が勝ち負けを判断します。ファイターたちは、400字詰め原稿用紙6枚以内の小説、詩、短歌、俳句、エッセイ、シナリオなどを応募し、ジャッジからの判断を待つことになります。

ファイターにもジャッジにも、すでに活躍している小説家や評論家とデビューを目指す書き手が混在しているのが、この企画の面白いところです。選考が進んだ作品は誰でも読めるようになっており、ファイターたちを中心としたブンゲイファイトクラブの“コミュニティ”の人たちが感想をTwitterなどSNSにどんどん書き込んでいきます。参加者は、プロアマの垣根にとらわれず、小説を読んだり書いたりすることを楽しんでいます。

出版社が主催する公募新人賞のように商業出版でのデビューや賞金が約束されているわけではありませんが、ファイターにとっては腕試しや修業の場になるばかりか、作家や編集者の関心を寄せてもらうきっかけにもなっています。

出版社などが運営する小説投稿サイト以外の場でも、ソーシャルメディアならではの特性を利用して新人作家の発掘や育成ができるようになってきているのです。

これからの出版社にとって欠かせない存在になるソーシャルメディア

出版業界のプロモーションは大きくデジタルシフトしつつあります。今回は、ソーシャルメディアの基本を踏まえて、出版社がソーシャルメディアを活用する重要性や成功事例について解説しました。そのなかでも、さまざまなSNSの公式アカウントの開設、適切な運用は、出版社にとって欠かせないものになっているのではないでしょうか。

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参考サイト:

参考文献:

  • 書籍『イラスト図解式 この一冊で全部わかるWeb制作と運用の基本』(SBクリエイティブ)