シリーズコラム/コンテンツ製作の現場から【教科書、教材コンテンツ】前編

シリーズコラム/コンテンツ製作の現場から【教科書、教材コンテンツ】前編

出版

出版市場はいま大きな変革の最中にあります。

相次ぐ書店の閉店など厳しい現状が伝えられる一方で、今までにはなかった価値の提供とスピード感で新たなビジネスモデルが生まれているのもこの市場の特徴です。

激変する市場に対応するために、今日も当社の「コンテンツ製作の現場」は動いています。本コラムは、変化する市場に対する当社の取り組みを知っていただく内容として、シリーズでお届けします。

 

第3回【教科書、教材コンテンツ】前編
紙のノウハウをデジタル教科書に活かし、新たな技術との連携で可能性を広げる

文部科学省の「GIGAスクール構想※」は、当初は2023年度に完了という計画でしたが、皮肉にもコロナ禍で予算が前倒しされ、2021年3月までに小中学生に関しては1人1台の学習用端末がほぼ完了するという状況に。ハード面のデジタル化が一気に進んだのに歩調を合わせソフト面、なかでも検定教科書のデジタル化に関しては、すでにテスト的に始まり、2024年には英語の授業に関してデジタル教科書の導入が決定しました。他の教科でもデジタル教科書が順次、導入されていくことが想定されます。

紙からデジタルへ。教科書の形態が大きく変わっていく中、図書印刷はどのように自社の強みを発揮しているのか。技術開発部門の宮本崇氏、プリプレス部門の小笠原明宏氏に話を聞きました。

※GIGAスクール構想:
2019年12月に文科省が発表した教育改革案。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略で「すべての児童・生徒にグローバルで革新的な扉を」という意味。目的は、子どもたち一人ひとりに最適化された創造性を育む教育の実施や、情報通信や技術面を含めたICT環境の実現。具体的には、児童生徒1人1台の学習用端末やクラウド活用を踏まえたネットワーク環境の整備を行うことが計画された。

教科書のデジタル化への取り組みはGIGAスクール構想以前から始まっていた

 実は、「GIGAスクール構想」が発表となる以前から、図書印刷内ではすでにデジタル化への準備を進めていました。宮本氏によると、

「教科書を取り扱う他社さんと共同で、デジタル教材の統一プラットフォームづくりなどを進めていました。ちょうど、電子書籍が出始めた頃で、紙の教科書ではできないことをやろうと、教科書だけでなく、参考書やドリルなどの教材を含めた大きな枠組みでのデジタル化を考えていました

将来的にはその大きな枠組みまで広がっていくことが想定されますが、現段階で「デジタル教科書」と呼ばれるものは、あくまでも紙の教科書と同じ内容をデジタル化したもの。文科省の検定を通った内容以外を含めることはできません。とはいえ、デジタル教科書にあって、紙の教科書にはないものもあります。たとえば、リンクです。

デジタル教科書には、1冊あたり1000~2000のリンクが貼られ、それをクリックすることで、より詳細な情報や関連動画が表示されます。一般的な電子書籍のリンクが2つ3つ程度であることを考えれば、膨大なリンクのある教科書の作りはかなり工程数が多く複雑です。

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宮本崇
図書印刷株式会社
技術開発本部 技術開発部製造システムG

制作としては、紙からデジタルにするというより、むしろ逆で、多様なデジタルコンテンツを紙の教科書に表示させるための構成を作るという発想になります」と宮本氏。

今後、紙の教科書用の印刷データと、デジタル教科書のデータをシームレスに連携させていくためにも、こうした発想は必要なようです。

また、デジタルをベースにすることで指導者用の教科書も作りやすくなると宮本氏は言います。

「指導者用教科書には、文科省の検定からは漏れた内容などを含むことがあるのですが、それに属性というかタグをつけています。タグがついているコンテンツを使用しなければ、それがそのまま検定教科書になります」

それぞれに個性のあるプラットフォーム
そのすべてに対応するために

宮本氏が語っていた「GIGAスクール構想」以前のデジタル化計画では、プラットフォームはビューアーの役割が主でした。一方、現在のプラットフォームは、生徒やコンテンツの管理、ECなどの役割も担っています。ここで言うコンテンツは、教科書に貼ったリンクの先、詳細情報や動画などです。さらに、ビューアーとしてもオンラインで使うブラウザ版だけでなく、オフラインでも仕えるアプリ版も備え、通信環境の良し悪しに左右されず、いつでもどこでも学べる環境が整備されています。

「プラットフォームはひとつではなく、現状で5~6サイトあるかと思います。基本となるベースは同じでも、それぞれに個性があり、見せ方や使い勝手が違います。これは、データ構造が違うということです」と宮本氏。

つまり、デジタル教科書を作る際は、どのプラットフォームを利用するかも考慮する必要があるということになります。その点を宮本氏に尋ねてみると、ほぼすべてのプラットフォームに対応できる体制を取っているとの答えが返ってきました。その秘密は、人材にあります。

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「各プラットフォームの特性を理解して全体を組み立てるディレクターの元、紙面構成を統括するデザイナーがいて、実際にデータを組むコーダーがいます。それぞれの役割は以前と比べて増えていますが、分担をしっかりとしてチームで動くことで作業をスムーズに進めています」

今後、教科書のデジタル化が本格化していく中、宮本氏は役割分担に応じた技術の伝達を進めていくとともに、新たな人材育成もすでに始めています。その人材として注目したのがプリプレス部門でした。その理由を宮本氏はこう説明します。

教科書の紙面構成はとても特殊です。たとえば、数式の入れ方やルビの振り方、コラムや側注も入ってくるので、教科書そのものを理解していないとページメイクができません。その点、プリプレス部門は教科書を作るノウハウを持っていますから」

教科書を作るノウハウを持った人財に
デジタルという新たな武器を搭載

プリプレス部門では、昨年2021年4月から半年をかけて、デジタル教科書のためのレクチャーを受けてきました。小笠原氏によれば、

「元々、辞書や図鑑などの制作を通して、HTMLやXMLを扱う経験はありましたが、デジタル教科書を作るためにはDTPのノウハウ以外にデジタルコンテンツとして作り込むためのプログラムやWeb技術が不可欠で、その人財育成が課題でした

そこで、技術部門から各プラットフォームのデータ構造や制作プロセスなどを中心にレクチャーを受講。2021年の後半には、リンクを貼るプラットフォーム別のデータを作るなどの作業を技術部門と一緒に行い、デジタル教科書を作成する下地を作りました。

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小笠原明宏
図書印刷株式会社
プリプレス本部
メディアプロダクツ部 制作グループ

「今年に入って、プログラミングの基礎を学ぶ研修にプリプレスから3名の社員を派遣しました。HTMLやJavaScriptの基礎をきちんと学ばないと、技術部門とコミュニケーションを図れませんし、コンテンツの設計や要件定義を記述するといった作業にも関われません。そのため、今後の事業ポートフォリオ拡大に向けて必要と考えました」と小笠原氏。

プログラミング研修に派遣されたのは、若手、中堅、ベテランからそれぞれ1名ずつ。幅広い年代をバランスよく選抜したのにも訳がありました。小笠原氏曰く、

「柔軟性のある若手には、新しい目標を持って仕事をしてもらうため。中堅には現状に満足せず、成熟度をより深めてもらうため。経験豊富で視野の広いベテランには、アウトプットの幅を広げてもらうためです」

紙の教科書を作るノウハウを持つプリプレス部門が、プログラミングやWeb技術を学ぶことで、デジタル教科書の表面化しているニーズを正確に把握して製造設計を行え、潜在的なニーズには様々な角度から仕様を検討、提案し、お客様と一緒になってデジタルコンテンツを作っていくことができるようになります。
これは、図書印刷がデジタル教科書の作成を担う中で非常に大きなアドバンテージになります。技術部門と連携しながら、より質の高いデジタル教科書を作ることが期待できます。しかし、どうやら連携は技術部門とプリプレス部門だけには留まらないようです。

教育とは別分野のチームと連携し、得意分野を磨いて「強み」を作り出す

教科書の主題は、学ぶ側によって変化します。たとえば、小中学校なら、学習に意欲や興味を持たせること、高校生ならば、自ら学んでいくことが主題に。そうなると当然、教科書の作り方も変わります。図書印刷でいえば、これまでは小中学用が得意分野であり、今後は高校用にも力を入れていく方針ですが、実はもうひとつ、注目している分野があります。それは、特別支援教育に関するコンテンツです。特別支援教育へのICT活用は、国としても重要視している分野。ひとしく子供たちの可能性を広げる、その意義は大きなものがあります。

「工程数の多い複雑なコンテンツですが、やりがいはあります」と宮本氏。当社の取り組みの特徴には、新規事業であるAI音声によるオーディオブック「ビジガク」との連携があるようです。

※「ビジガク」について詳しくは、こちらのコラムをご参照ください

 特別支援教育では「読み上げ機能」がとても重要になります。「ビジガク」のテキストを音声化する技術のノウハウが活用できるのでは、と宮本氏は考えていました。

「当初、問題は<漢字>の読み上げと想定し、漢字にはルビを振れば対応できるだろう」と思っていたそうです。ところが、そう簡単にはいかないようです。特に日本語では<テニヲハ>に代表される同じ表記なのに、違う発音をする箇所の読み上げが端末のOSによって、精度がバラバラなのです。

「今取り組んでいるのは、機械音声が読み間違えない原稿の作成です。端末ごとにテストを繰り返しながら修正を加えていますが、かなり精度は上がってきています」

宮本氏はこの情報を「ビジガク」チームと共有しながら、お互いの技術向上に役立てていきたいと語ります。目指すは、読み上げの表現性も含めて機械音声とはわからないデータづくり。そのノウハウは、おそらく他社では真似のできない図書印刷の強みになります。

時代が変わっても、形態が変わっても教科書を作り続けていく

デジタル教科書の本格導入が始まる2024年は間近。現在はまだ紙の教科書が主流ですが、将来的にはデジタルがメインへと移行していくのかもしれません。その中で、図書印刷ができることは何なのか。宮本氏、小笠原氏に改めて聞いてみました。

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宮本氏

「生徒側に立てば、デジタル教科書のメリットをさほど感じられてないと思います。まだテスト中ですから。ただ、教師の側に立つと見えてくる景色は違っていて、生徒の授業態度や端末の使用頻度、どう使っているのか、ちゃんとできているのかなどが、デジタルによって数値化されて見える。これは、教育計画や授業計画に非常に参考になると思います。私たちにしてみても、リアルタイムでログ解析ができて情報を直接取ることができます。それを活かした企画の提案も今後はしやすくなると思います。デジタルマーケティングの部隊とも連携していきたいですね」

小笠原氏

「デジタル教科書が本格導入されていき、特に小中学校では、手で書いて覚えることや線を引いて覚えることなど五感を使って学ぶアナログ的な部分と、デジタル教科書ならではの機能(画像、音声)の両側面で学びのスタイルが変化していくのではないでしょうか。高校生からは自ら学ぶアクティブラーニングが推奨されるので、デジタルとの相性がいいのかもしれません。そのどちらにも対応できることが、我々の強みかなと思います。これまで教科書を作り続けてきた実績と経験を活かし、新しい技術やノウハウを取り入れながら、紙とデジタルの教科書製造でお客様から信頼される図書印刷にしていきたいと考えています」

紙からデジタルへ。教科書の形態が変わることで、制作の現場にも大きな変化が起きていました。その流れは、物流にも影響しています。そこで次回の後編では、教科書や教材の物流に起きた変化について注目していこうと思います。

≪後編はこちら

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