変化する管理職の役割と業務―今、管理職研修に必要なカリキュラムとは?
コミュニケーション
近年、管理職に求められる能力と知識は、かなり高度化、複雑化しています。部下の育成能力、マネジメント能力はもちろん、コンプライアンス、ハラスメント、ダイバーシティなど広範囲な知識が必要です。今後、管理職研修はより重要になってくると言えるでしょう。管理職研修の目的、管理職に求められる能力、研修のカリキュラムや実施する際のポイントをご紹介します。
- 目次
- 1. 管理職研修がより重視される背景
- 2. 管理職に求められる能力。マネージャーとゼネラルマネージャー
- 2-1. マネージャー
- 2-2. ゼネラルマネージャー
- 3. 管理職研修のカリキュラム例
- 3-1. 階層別
- 3-2. スキル別
- 4. 管理職研修を実施する際のポイントや注意点
- 5. まとめ
管理職研修がより重視される背景
近年は、管理職の多くがプレイングマネージャーであり、自分のタスクをこなしながら部下のマネジメントを行うことを求められています。2017年11月に産業能率大学が行った「第4回上場企業の課長に関する実態調査」では、課長の99.2%がプレイングマネージャーという結果が出ています。そして、3年前と比較して58.9%が「業務量が増加している」と回答しています。
「労働時間・場所に制約がある社員が増加している」、「非正規社員が増加している」、「外国人社員が増加している」という回答も過去最高の数値であり、部下の雇用形態や属性が多様化しつつあることが分かります。プレイングマネージャーでありながら、ひと昔前よりも細やかなマネジメント能力が必要になっていると言えます。
厚生労働省が発表した2018年版「労働経済の分析」(労働経済白書)では、一般社員の約6割が「管理職になりたくない」と回答しています。その理由は「責任が重くなる」が71.3%、「業務量が増え、長時間労働になる」が65.8%です。一般社員から見ても昨今の管理職は業務量が多く長時間労働であることが分かります。
今後は、働き方改革の推進により、例えば、短時間勤務の正社員、リモートワーク社員、自分より高齢の社員、外国人社員など、さらに多様な属性、ワークスタイルの社員が増えていくことが予測されます。残業時間に規制もかかります。管理職には、いろいろなタイプの部下を育成しながら短時間で生産性を上げていくという非常に高いマネジメント能力が求められることになるでしょう。企業は管理職にしっかりとした研修を行い、継続的に支援していく必要があると言えます。
管理職に求められる能力。マネージャーとゼネラルマネージャー
同じ管理職でも、マネージャー、ゼネラルマネージャーは、それぞれに求められる役割が違います。マネージャーの多くが部下を育成しながら設定された目標を達成するためにチームを率いる“実行部隊の長”であるのに対し、ゼネラルマネージャーはその事業部の戦略を構築し事業を推進していく役割です。また、ゼネラルマネージャーは最終的にその事業の責任を担う決定者であり、経営的な視点も必要になります。
マネージャー、ゼネラルマネージャーに求められる能力は、以下のようなものがあります。
マネージャー
マネージャーには、部下の育成をはじめチームの目標を達成するためのさまざまな能力が求められます。
- コーチング能力
- マネジメント能力
- リーダーシップ
- ロジカルシンキング
- 業務推進能力(PDCA)
- 戦略立案能力
- 問題解決能力
ゼネラルマネージャー
ゼネラルマネージャーは、マネージャーに求められる能力に加え、経営に関する以下の能力が求められます。
- 事業戦略構築能力
- 経営環境、経営課題の把握能力
- 経営分析力(財務状況の理解力)
- 他事業部との調整能力
- 事業部トップとしての意志決定能力
※上記は一般的な例であり、厳密には企業によって求められる能力は異なります。
管理職研修のカリキュラム例
管理職研修は、昇進や昇格時に行われることが一般的です。マネージャーやゼネラルマネージャーとしてのマインドセットを身に付け、より高い視座で業務にまい進してもらうためにも、昇格時の研修は必須だと言えるでしょう。それに加え、専門分野・スキル別にさまざまな研修を実施する必要があります。以下に、管理職研修の代表的なカリキュラム例をご紹介します。
階層別
- 初任管理職研修のカリキュラム
管理職の役割・マインドセット、マネジメント能力、PDCAやKPIへの理解 - 経営幹部(ゼネラルマネージャー)研修
経営幹部の役割・マインドセット、経営理念、経営環境の理解、事業戦略の構築・策定、チームビルディング、ファイナンス基礎知識
スキル別
- コーチング研修
傾聴のテクニック、承認の重要性、人材タイプ分類方法、相手のタイプにあわせた効果的な質問方法 - コンプライアンス研修
コンプライアンスの基本、個人情報保護法について、情報セキュリュティーについて、コンプライアンス不祥事事例 - ダイバーシティ研修
ダイバーシティの概念・必要性、自己分析(自分のバイアスに気付く)、多様な働き方を推進する目的・効果事例、女性活躍推進、 - ハラスメント研修
ハラスメントと種類と定義、ハラスメントの事例紹介、ハラスメントによる損失、ハラスメントを防ぐ環境づくり - メンタルヘルス研修
メンタルヘルスの重要性、ストレスの種類について、ストレスのチェック方法、ストレスへの対処について - ITスキル研修
Word、Excel、PowerPointの基礎・応用、IT活用による効果事例(業務効率化、生産性向上) - ビジネス英語研修
英文メール作成方法、英文ビジネスレター作成方法、シーン別のビジネス英会話(挨拶、業務連絡、会議)
管理職研修を実施する際のポイントや注意点
管理職研修を実施する際は、研修の目的や緊急性、社員の属性により、集合研修やeラーニング、外部の教育機関の研修を使い分けたり、組み合わせたりすることがポイントです。
新しい役割へのマインドセットが必要な階層別研修や同じ立場の社員との交流に意義がある研修には、集合研修が適していると言えます。また、緊急を要する内容や中長期的に重要になってくる分野の初期教育は、社員によって習熟度が異なってしまう可能性がある自己啓発スタイルよりも、集合研修を速やかに実施した方が、管理職全員の能力を一気にレベルアップできる可能性があるでしょう。
例えば、以下のようなケースは集合研修が適していると言えます。
- 昇格時の管理職研修
- 女性管理職研修
- 法令変更に関する研修
それ以外のスキル研修については、企業の業務内容、職場の状況によりどの研修スタイルがベストかは異なります。しかし、冒頭に紹介したように近年の管理職の業務内容はかなり複雑化しているうえ、マネージャーについては9割以上がプレイングマネージャーという現実があります。現場を長期間離れなければならない集合研修は業務の負担になってしまう可能性があります。できるだけ集合研修の日程を少なく組み、eラーニング、外部の教育機関の受講など、自由度の高いスタイルの研修にすることが望ましいと言えるでしょう。
まとめ
近年、専任の中間管理職は激減し、管理職の多くがプレイングマネージャーになっています。反面、業務においては、ビジネスの急速なグローバル化や技術革新により、身に付けるべき知識が広範囲に広がっています。マネジメント能力に加え、英語力やITスキル、AI、RPAなど最新テクノロジーの知識も率先して身に付け、部下を指導することが求められているのです。企業は管理職に対して継続的な研修を行い、支援していく必要があると言えるでしょう。
参考: