社員教育の代表的手法とこれからの社員教育のあり方

人事・総務

少子高齢化に伴う人材不足に加え、IT(情報技術)やAI(人工知能)などが急速に発展し、ビジネスの高度化、専門化が進む近年、企業における社員教育の重要性は増しています。業務の質の向上や効率化を図るため、企業はさまざまな研修を実施し、社員の知識や能力の向上に取り組んでいます。社員教育について、OJTやOff-JT、自己啓発などの特徴や目的を整理し、社員教育の実態から今後の方向性などを探ってみます。

社員教育の目的

会社の人事部門が中心になって提供する社員教育の目的は、大きく分けると次の2つになります。

  • 社員教育により、仕事で役立つ知識や能力を高め、企業の生産性の向上につなげる。
  • 企業の理念やビジョン、目標などを共有することで、社員に同じベクトルを向かせモチベーションを向上する。

社員の生産性やモチベーションを向上させることで、結果的に企業の業績も上がると考えられます。業務内容に直結した教育だけでなく、基本的なビジネスマナーのほか、プレゼンテーションや論理的思考力などのスキルを磨くことで、企業力の底上げにもつながります。また、コンプライアンス(法令遵守)や情報セキュリティへの意識を向上させるための教育も、企業の信頼性向上のためには今や必須です。

 

社員教育の種類や方法

企業が実施している社員教育には、さまざまな方法が取り入れられています。日常業務を通じて行う職場内訓練のOJT(On the Job Training)や、一時的に日常業務を離れて行う職場外訓練のOff-JT(Off the Job Training)のほか、最近ではeラーニングによる自己啓発や資格取得の支援、書籍の配布なども行われています。社員教育の種類や方法、特徴などを説明しましょう。

OJT

OJTとは、職場で部下に対して上司や先輩が実際に仕事をしながら、マニュアルに沿って計画的、体系的に必要な知識やスキルを指導し身に付けさせる指導法です。日本の企業では従来、OJTによる社員教育が中心を占めていました。なかでも新入社員への研修が顕著な例で、一人ひとりの社員がさまざまな職務を実際に経験することで、机上で学ぶよりもスピーディーに育成されています。

会社の規模にもよりますが、人事や部門長が社員教育についての計画を作成し、具体的な指導担当者を決め、対象となる社員や階層、研修内容や期間などを定め、継続的に実施されています。

Off-JT

Off-JTとは、職場を離れて業務に必要な知識や能力を身に付けさせる指導法です。主に、人事担当者がカリキュラムを作成し、社員に研修プログラムを受講させます。社員が講師を務める場合もあれば、社外の研修機関から講師を呼ぶ場合もあります。社外で実施される研修に社員を派遣する場合もあります。新入社員の研修に始まり、職種別、管理職などの階層別研修などが実施されることが多いようです。

近年、業務の専門性や高度化に伴い、必要とされる知識や能力、スキルが急激に変化し、社内に指導できる社員がいないことも増えており、Off-JTへの要請も強く、多様化してきています。

eラーニング

eラーニングは、社員が都合の良い時間に自分のペースで繰り返し受講可能で、ネット環境とデバイスさえあれば学習に取り組むことが可能です。受講者を同じ日時や会場に一度に集める必要がないため、研修の主催者は研修場所の手配が必要なく、受講者にとっても移動の手間が省けます。時間や費用などの負担を軽減できるというメリットは大きく、導入企業が増えています。また、eラーニングを活用した通信教育などで社員が自発的に能力開発に取り組むケースも見られます。

自己啓発

自己啓発は本来、社員個人の自発的行動によるものですが、そこから得られる知識やスキルはもちろん、モチベーションの向上や資格取得などは企業にとっても大きなメリットになるでしょう。福利厚生の一環として、受講料の一部負担や資格取得に伴う報奨金を支給するなど、企業が社員の自己啓発をサポートするケースもあります。また社長が業務について執筆した書籍を配布することで、自社商品に対する意識づけを強化するような取り組みを行っている企業も見られます。

 

社員教育の実態

厚生労働省が能力開発の実態を知るために実施している「能力開発基本調査」(平成29年度)から、社員教育の現状がうかがえます。調査ポイントごとに見ていきましょう。

  • 人材育成に関する問題点の内訳(事業所調査)

OJTの実施による問題点として、「指導する人材が不足している」と回答した割合は54.2%、「人材育成を行う時間がない」と回答した割合が49.5%でした。

  • 教育訓練に支出した費用の労働者1人当たりの平均額(企業調査)

企業がOff-JTに支出した費用で、労働者1人当たりの平均額は1.7万円(前回2.1万円)でした。自己啓発支援に支出した費用となると、労働者1人当たりの平均額は0.4万円(同0.5万円)です。企業の支出はやや減少傾向にあります。

  • 人材育成の実施状況(事業所調査)

正社員に対してOff-JTを実施した事業所は75.4%(前回74.0%)、正社員以外にOff-JTを実施した事業所は38.6%(前回37.0%)で、正規と非正規社員の間にかなりの隔たりがうかがえます。

  • 自己啓発の状況や課題(個人調査)

自己啓発に取り組んだ者は正社員では42.9%、正社員以外では20.2%でした。自己啓発に取り組む上で「問題がある」と感じる正社員は78.9%、正社員以外は70.7%でした。問題と感じる点は正社員・非正社員ともに「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」が最も多く、正社員は「費用がかかりすぎる」、非正社員では「家事や育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」と続きます。

企業・社員ともに社員教育や自己啓発について問題を感じていながらも、対応が追いついていないことが見てとれます。また、正規・非正規社員間で教育状況の差が生じていることも分かります。

今後の社員教育の在り方とは?

OJTやOff-JTといった教育方法は本来、意図する狙いや教育内容などがそれぞれ異なります。実務を遂行する知識やスキルを迅速に習得するのに適したOJTですが、指導者不足や人材育成にかける時間的な課題も浮き彫りになっています。一方、仕事に関する体系的な知識や、理論的でより高度な能力、日常業務には直接的には関わりがない知識やスキルの習得を目的とするOff-JTでは、企業側の支出が鈍る傾向が見られます。

今後はOJTやOff-JTなどの教育方法の違いを認識し、企業が目指す社員教育の理念に基づきながら、状況に合わせて効果的に使い分ける必要があります。また、正規・非正規社員間における教育状況の差にどのように対応していくかも課題となるでしょう。

OJTとOff-JT、それぞれの教育方法がもつメリットやデメリットを踏まえ、相互補完できるような現実的な運用法に課題解決の糸口が見出せそうです。

OJTのデメリットをOff-JTで補完

ITやAIなどの導入によってさまざまな業務が急激な変化を遂げている今、新たに必要となる知識・スキルをOJTで現場に取り入れることは難しい側面があります。それらをOff-JTで学ぶ機会を設ければ、速やかに日常業務に反映することも可能です。

各業種に共通する知識や能力をOJTだけで身に付けるのは効率的ではありません。所定の文書作成やIT機器の使用法、社内の制度全般への教育などは、理論的、体系的にOff-JTで学べる機会を整備すれば、組織全体の底上げとなります。新入社員はもちろん、リーダーや中堅社員のマネジメント研修などで定期的に実施するのも良いでしょう。

Off-JTのデメリットをOJTで補完

Off-JTには時間やコストがかかり、業務に即活用できる内容ばかりではないというデメリットがあります。教育プランを作成する段階で、社員・非正規社員の対象者と、教育するスキル内容を絞り込んでから実施すれば、コストを削減できるでしょう。また、Off-JTでは鍛えにくい実践的な部分をOJTの実務内容に組み込むようにすれば、業務に即活用しにくいという点をカバーできる可能性は高くなります。

仕組みを整備する

より効果的な社員教育を運用するためには、人事的な仕組みの工夫や整備が不可欠です。

OJTには教育側の指導力や内容で差やバラつきが生じやすいというデメリットもあります。この点を克服するため、統一的な指導教材の提供や指導者向けトレーニングの実施などを行うことで、教育力の均等化や向上に奏功するでしょう。

企業の狙いと担当部署の食い違いをなくすために、人事担当者と各部署の指導担当者が協力してOJTの計画を練り実施することで、場当たり的な教育を回避することにつながります。さらに、実効性のある社員教育の実現には、経営陣も積極的にかかわり、社員教育の仕組みの構築や適正な運用を支援することも求められます。社員教育を円滑に推進するために、教育計画の進捗状況を確認したり、必要に応じてフォローしたりする仕組みを作ることも有益でしょう。

まとめ

ここ数年、急速なITやAIの進化に伴う、社員に求められるスキルの専門化や高度化には目を見張るものがあります。加えて、約50年後の2065年には日本の人口は約8,800万人まで減少するという厚生労働省のデータも公表されています。少子高齢化が進むなかで、企業は生き残りをかけて社員教育を強化する必要に迫られており、これまで以上に社員教育に力を注ぐ必要があるでしょう。従来からのOJTやOff-JTといった方法のほか、eラーニングや自己啓発の支援などを取り入れ、それぞれの教育方法のデメリットを補完できる運用や工夫が求められます。

参考:

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