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中堅・中小企業の43%がマーケティング予算を増額 一気に進むマーケティングのデジタルシフト

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マーケティング・販促

2021.04.15

新型コロナウイルスの影響から、社会全体のデジタル化が進む中で、マーケティング領域のデジタル化、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)は、どのような展開を見せるのでしょうか。

「多くの企業が今、マーケティングDXに本腰を入れ始めている」と分析するマーケティング専門メディア『MarkeZine(マーケジン)』編集長の安成蓉子(やすなりようこ)氏に、図書印刷ソリューション開発推進部の湯川千尋が、マーケティングのデジタル化における現状や成功のポイントなどを聞きました。

 

コロナ禍で「新たなビジネスチャンスが生まれた」という回答が3割も

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安成蓉子氏
株式会社翔泳社
メディア部門 MarkeZine編集部 編集長

『MarkeZine』といえば、2006年に創刊された老舗のマーケティング専門メディアだ。
当時は“デジタル”の施策を中心にマーケターをサポートしてきたが、デジタルとリアルの境がなくなってきた近年は、マーケティング全体を包括する専門メディアとして、現場のマーケターからマーケティングに期待を寄せる経営層まで、多くの読者から支持され続けている。

WEBメディア運営のほかにも、定期誌の発行やセミナー、イベントの実施、さらにはスクール展開やリサーチなど幅広い領域をカバー。「実務・実践・再現性」を軸にコンテンツ作りを行う同媒体では、編集部自体もマーケティングDXを実践しているという。

さまざまな角度からマーケティングの今を掴み発信する編集部では、コロナウイルスの感染拡大により変わる業界や各企業の動向を、どのように捉えているのだろうか。MarkeZineの安成蓉子編集長は、コロナ禍で行った調査結果をもとに次のように分析する。

「心強かったのは、コロナの影響による『売上減少』の回答が77%にものぼったにもかかわらず、『新たなビジネスチャンスが生まれた』という回答が30%もあったことです。売上減少というネガティブな状況に見舞われながらも、そこにチャンスを見出して動こうとする読者の姿が結果に表れていました」(安成氏)。

また、「コロナの影響による変化や、対応を迫られているものをお選びください」という質問への回答では、「顧客との商談・打ち合わせをオンラインに移行」が70.3%、「予定していたプロジェクトや施策の中止・変更」が64.5%、さらには「顧客とのコミュニケーションやメッセージの見直し」が59.0%との結果であった。

これらのことから安成氏は、「従来の定説、勝ちパターンが通用しなくなっています」と読み解く。だからこそ、「これまでデジタルマーケティングやDXに本腰で取り組んでいなかった企業も、変革に向けて動き出しています」と指摘する。

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「MarkeZine RESEARCH」調査 「新型コロナウイルス感染拡大がマーケティングに与える影響」(2020年4月22日~5月6日実施)

 

今後マーケターは、自社HP・自社ECサイトでのコンテンツ発信に注目

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「コロナ以前も『マーケティングDX』という言葉は注目されていて、該当するコンテンツがよく読まれていました。ただ、苦労をしてまで現状を変えなくてもと考える経営者は少なくなかったと思います。それが、このコロナ禍で既存の施策が通用しなくなったわけです。出稿メディアから予算のアロケーションまで、一気にデジタル化が進んでいることを実感しています」と安成氏は語る。

現実にそれを裏付ける調査データもある。MarkeZine編集部が2021年1月にリリースした『マーケティング最新動向調査2021』では、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きくビジネス環境が変わった2020年9月に、1000名を超えるマーケターに行った調査の結果がまとめられている。

この調査の中で、企業規模別に現状と3年後の予測を聞いたところ、全社規模でマーケティングのデジタル化を積極的に進める企業は、売上高1000億円を超える大手企業では6割にのぼり、中堅・中小でも4割となることが明らかになった。

さらに、今後3年間のマーケティング・販促予算の変化を聞いたところ、「増える」との回答が大手企業では33.7%であり、中堅・中小企業では43.4%と大手以上に多かったのだ。

「恐らく、これまでデジタルマーケティングに本腰で投資していなかった中堅・中小企業ほど、今後は必須だと、行動に移そうとしているのだと思います。これまで展示会に出ていればリード(見込み顧客)が獲得できると考えていた企業も、新たにWEBセミナーにチャレンジしたり、デジタル施策でPDCAを回さなければなりません」(安成氏)。

そして、各チャネルへの予算を前年と比べた質問では、「自社のHP・自社ECサイト」への投資が「増えた」としたのが33.4%と最大であった。ソーシャルメディアの25.5%、オンラインイベントの28.9%を超える結果だ。

デジタル媒体のペイドメディアは、低予算から出稿できるとはいえ、「ペイドメディア(4マス媒体、デジタル媒体の有料広告)」は18.6%。これらを比較しても、自社サイトやECサイトへの注目度は高い。3年後の予測ではさらに55.2%と数字が跳ね上がっており、今後も拡大していくことがはっきりと予見できる。

「取材を重ねながら感じているのは、コンテンツマーケティングへのニーズの高まりです。自社のWEBサイトが重要な顧客接点になっていることは間違いなく、今後も企業は注力していくはず。また、ECサイトもますます重要性を増すでしょう。世界は既にデジタルが、店舗などのオフラインを内包する時代になっています」と、安成氏は強調する。

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デジタルシフト成功の分かれ道は「自分ごと化」

さらに安成氏は、「これまでOMO(Online Merges with Offline)は、リアルな店舗を基準にデジタルを融合する方向性から全体像が描かれることが多かったかと思います。ですが、今まさに注目を集めるD2C(Direct to Consumer)ブランドが育ったときには、デジタル基点でのリアルへの進出という、これまでとは逆のベクトルで描くOMOの姿が出現してくるのではないでしょうか。非常に面白い世界観になりそうです」と期待感を示す。

実際、既にリアル店舗とオンラインで、従来とは違ったマーケティング施策も登場している。たとえば「花王×PayPay」の店頭キャンペーンもその一つだ。これまでドラッグストアなどで商品を置いてもらうには大規模なテレビCMを行うのが定説だったが、本キャンペーンでは花王はPayPayと組み、最大40%のPayPayボーナス還元によるキャンペーンを行った。

「第2弾が行われていたことからすると、成果は上々だったのではないでしょうか。いずれにしても、キャッシュレスの仕組みを使って、店頭販促がデジタルシフトしている変革的な事例だと注目しています」(安成氏)。

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このほか、BtoCの先進企業として名前が挙がったのは、老舗企業の強みを活かし、各部門で自分ごと化したDX推進を行うMizkan(※1)だ。また、BtoB企業では、自らDXに取り組みながらそのノウハウを新規事業としてユーザー企業へ提供するAdobe(※2)やSanSan(※3)である。

※1 「DXは直線的には進まない。指数関数的なイメージが必要」 MizkanのCDOが語る変革への5つの指針
※2 DXへの幻想を払い、正しい投資を実現するには? 日本企業におけるDX推進の考え方と実践 
※3 「日本のBtoBマーケティングを底上げする Sansanが見据える、イベントテック事業の勝算」


「DXを上手く推進している企業は、なぜ自分たちの会社がそれをやる必要があるのか、きちんと整理した上で全社的に進めています。一方、社内にデジタルが分かる人間がいないからと外部に丸投げする企業は上手くいかない印象があります。やはりきちんと『自分ごと化』して進められるかどうかが、成功の分かれ道になってくるのではないでしょうか」と、安成氏は述べる。

デジタル化やマーケティングDXの成功には、企業規模は関係ない。「DXでいえば、本質的に重要なのは、『デジタル』よりも、“変革”である『トランスフォーメーション』だ。「これまでのやり方では立ち行かなくなっている今、重要なのは変革の糸口を見つけることでしょう。もともとデジタルマーケティングは、低予算から取り組めるのがメリットですから、中堅・中小企業様でも十分にチャレンジできるはずです」と、安成氏は力を込める。

 

コミュニティ参加で“マーケターの孤独”を乗り越える

とはいえ、前例のない施策を社内の周囲に認めさせるのには困難がつきまとう。安成氏は予算の獲得が大きなハードルであり、その場合の対策としてシンプルな計算式で数値を見せる重要性を教えてくれた。

例えばコンテンツマーケティングでの予算の獲得に際しては、コンバージョン率やCPA(Cost per Acquisition:顧客獲得単価)といった費用対効果を明示すのが効果的だという。他の施策でもこうした形で分解かつシンプルに提示すれば、新たな施策に対する周囲の理解を得やすい。

また、特に中堅・中小企業でデジタル化に踏み出すことが難しい要因として、“一人担当者”が多いことが挙げられる。そうした場合には、コミュニティへの参加が有効だと提言する。

「中堅・中小企業のマーケティング担当者は『孤独だ』という話をよく聞きます。記事から得た知識だけをもとに、施策を実行するのは心もとないですよね。だからこそ、私たちはメディア運営だけでなく、WEBセミナーやイベントも企画しています。その中で、講師や参加者同士がつながることを意図して、コミュニティ運営にも注力しています。同じ課題や悩みを持つ担当者が相談し合ったり、チャレンジしたことを、会社の枠を超えて分かち合える場をメディアとして提供してきたいと思っています。一歩踏み出して、ぜひ参加してもらえたらと思います」(安成氏)。

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湯川千尋
図書印刷株式会社
ソリューション開発推進部

期せずして到来したコロナ禍により、これまでなかなか変わらなかった社会や経営層のマインドセットは急速に変化した。企業のビジネスやマーケティングのデジタルシフトには、まさに追い風だ。この風に乗って、今こそ変革の道を歩み出す絶好の機会ではないだろうか。

 

プロフィール
安成蓉子氏
株式会社翔泳社 メディア部門 MarkeZine編集部 編集長

1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケター向け専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2015年、副編集長に。2016年、定期誌『MarkeZine』を創刊し、年間契約者向け有料サービスを開始。編集業務と並行して、出版社・ウェブメディアの新しいビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。

湯川千尋
図書印刷株式会社 ソリューション開発推進部

1988年図書印刷入社。企画制作部門でプロモーション企画、商品企画、イベント企画などを多数手掛ける。2017年よりマーケティング部門に異動、自社サイトのコンテンツ制作、ウェビナーの企画運営などの業務に注力、デジタルマーケティング領域の活性化が職務。

 

図書印刷のデジタルマーケティング支援サービス

図書印刷では、WEBサイトやEC事業の構築・リニューアルも含めた幅広いデジタルマーケティング支援サービスを提供しています。お客様の課題や外部環境を踏まえた上で、企業(またはブランド)の強み・特長を、データに基づいて洞察、咀嚼/翻訳し、課題解決へ向けた戦略プランの設計から運用までをお手伝いしております。

図書印刷が描くDX時代のマーケティング透視図のページでは、当社の「デジタルマーケティング支援サービス」の導入企業のご担当者様や、デジタルマーケティング界の識者の方々へのインタビューを通じて得られた「生の声」を掲載。ぜひお客様のマーケティング活動にお役立てください。

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