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CX(顧客体験)改善こそデータをもとに企業を成長させる画期的な手法〜須藤勇人氏【前編】

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CX(顧客体験)

2020.11.19


デジタルマーケティングの賢者たち(6)須藤勇人氏【前編】

市場の変化が早い現在、商品やサービスはすぐに価値が一般化してしまい、差別化が難しくなってきています。そんな中で注目を集めているのが「CX(=Customer Experience/顧客体験)」です。店頭や通販サイト、SNSといったあらゆる顧客接点を顧客目線で可視化・分析し、全体的なCXを向上させることで、商品だけでなくブランドや企業のロイヤルカスタマーを獲得することが可能になります。

経営者やマーケターに向けたスペシャルインタビュー「デジタルマーケティングの賢者たち」では、お客様のマーケティング課題や事業課題に対して、図書印刷が毎回さまざまなスペシャリストの方々から、ビジネスの成功に向けた金言を引き出しています。

今回は、NPS®(Net Promoter Score/ネットプロモータースコア)調査を通じて感情データを収集し解析することでCX向上に寄与する株式会社Emotion Techの須藤勇人(すどうはやと)氏に、図書印刷で企業のデジタルマーケティング活動を支援する山本航大(やまもとこうだい)が取材。CXとは何か、CSやCRMの違い、CXの測り方、CX改善で売上アップする方法などを伺いました。顧客ロイヤルティを向上したいとお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。

(今回は全2回の前編です。後編に続きます。)

 

CXの向上でロイヤルカスタマーを増やしてLTVをアップ

山本:御社はNPS®という調査の分析を通じてCX、つまり顧客体験価値の最大化を提唱されていますが、まずはCXについて教えていただけますでしょうか。

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須藤勇人氏
株式会社Emotion Tech
マーケティング部 部長

須藤氏:CXとは、商品やサービス単体ではなく、商品の認知から購買、利用、アフターフォローまで含めた一連の体験と、その全体から得られる価値のことを指します。

以前は、良い商品を作れば売れるという考え方が強く根付いていて、商品そのものではない接客や問合せ対応などの価値はあまり重視されていませんでした。しかし商品の良しあしでなく、CX全体、つまり商品を知って調べ、店舗に行って接客を受け、購入して使ってみて、壊れて修理に出し、問い合わせをして、といったお客様が受ける一連の体験全体の価値を高める企業が出てきました。すると商品自体の競争力をはるかに上回る価値が形成されてしまい、商品至上主義の企業では太刀打ちできないという事象が起こり始めました。

そこでそれぞれの体験の質を調査で測り、全体的な体験の価値を上げて売上も上げようということでCXが注目を集めています。

山本:CXを改善すると、どういったメリットがあるのでしょうか?

須藤氏:サイトや店舗で良い体験をすると、企業やブランドに対する信頼度が向上し、商品を購入してくれる可能性が高くなります。また、一度購入してくださったお客様がロイヤルカスタマー、つまりファンになってくださる可能性も高くなります。そのことでお客様のLTV(Life Time Value/ライフ・タイム・バリュー/顧客生涯価値)が上がり、売上アップや事業成長につながります。

山本:ロイヤルカスタマーを作る、ファンを作る、という視点で言うと、似たようなものにCS(顧客満足度)という手法もありますが、CXとCSはどういう違いがあるのでしょうか?

須藤氏:CSはお客様満足度、CXはお客様体験と、両方ともお客様の気持ちという感情データを収集し、それを分析して改善していく点は似ています。一方でゴール設定が違います。CS活動はお客様満足度を高めるということ自体がゴールなので、その先のサービス利用状況や事業成長までは問われず、CS部門は売上には貢献しないコストセンターとして見られがちでした。逆にCX改善のゴールはあくまで事業の成長や企業収益の向上です。そのため、CXM(顧客体験マネジメント)は売上をつくるプロフィットセンターと考えられています。

 

CXMは感情を元にした定性データ、CRMは定量データを扱う

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山本 航大
図書印刷株式会社
デジタルマーケティング営業部

山本:LTVの向上を目的とした手法としては、CRM(顧客関係管理)が一般的ではないかと思います。似ている部分もあるかと思うのですが。

須藤氏:CRMとCXMはゴールが同じです。両方とも売上を伸ばしていくことを目指しています。ただ大きく違うのが活用するデータです。

CRMはお客様の性別・年代といった属性データや、購入頻度や金額などの購買データ、一般に定量データと呼ばれる数値を分析します。たとえば20代女性の購入回数が多いとか、2回購入した人は3回目も購入する傾向にあるといったポイントを発見し、売上を伸ばしていく手法です。

しかし、CRMはCXMと違って感情に関するデータは入っていないので、お客様の気持ちを置き去りにしたマーケティング活動が行われてしまう危険性もあります。たとえばお客様に一方的に何回も電話してしまったり、途中解約しにくい年数縛りの契約を推進したりといった、お客様の満足を得られないことをし続けるような例です。感情とはまた別のところで売上が伸びてしまうということで、「悪しき利益」と呼ぶ方もいます。

逆にCXMの場合は「知り合いに勧められるか」というお客様の感情を表す定性データを分析し、信頼や愛着を感じてもらうことによって売上を伸ばす、「良き利益」を目指します。

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顧客満足度より「周囲への推奨度」を調査して売上アップ

山本:CXの計測のために活用されている、NPSという指標に関して詳しく教えてください。

須藤氏:NPS®とは大まかに言い換えると「顧客推奨度」です。企業や商品に対してどれほどの信頼や愛着があるかという顧客ロイヤルティを数値化する指標です。質問は簡単で、お客様に「あなたはその商品やサービスをお知り合いにどの程度お勧めしたいですか?」と聞き、10点満点で採点してもらいます。

山本:質問としては非常にシンプルですよね。これまで主流だった顧客満足度の質問と、どこが違うのでしょうか?

須藤氏:日本では1990年頃から顧客満足度は使われるようになりました。「あなたはその商品やサービスに満足していますか?」という質問は直感的にわかりやすいですが、長らく使われた結果、実は満足していると答えていても、その後商品やサービスを利用しない人が多いことがわかってきました。

そんな中でアメリカのコンサルティングファームがいくつかの質問を試してみたところ、「他の人に勧めたいと思いますか?」という質問が、もっともお客様のその後の購買行動や事業成長との関連性が高いとわかり、2003年にハーバードビジネスレビューで発表したのがNPS®の始まりです。

山本:NPSをどのように活用してCXの改善を進めていくのでしょうか?

須藤氏:NPS®はあくまでも会社や商品に対する信頼や愛着度を示す最終成績表のようなものです。それだけでは何を改善すれば点数を上げられるのかがわかりません。そこで「勧めたいですか?」だけでなく、その点数に影響を与えている体験が何なのかを調査します。その内容をカスタマージャーニーマップに落とし込んで、どこを改善すべきかの優先順位や、施策を行うことによる改善効果の大きさの予測を図で見ていただくことができます。当社が独自に開発し、特許を所得しているシステム「EmotionTech」によりカスタマージャーニーマップを作成することができます。

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▲資料出所:EmotionTech|カスタマージャーニーマップとは?作り方を紹介!
https://www.emotion-tech.co.jp/resource/2017/howtomake_customerjmap
Emotion Techのカスタマージャーニーマップ分析。それぞれの企業の顧客接点のうち、NPS®の点数に及ぼす影響の大きさ(青線)と現状の点数(赤線)との差がわかり、改善ポイントの優先順位が提案される

 

CXMでLTVを向上させるには

山本:LTV向上を目指して、CXMで気を付けるべきこと、重要なことはなんでしょうか?

須藤氏:CX全体の価値が上がれば、LTVも上がります。そのためにはまず、自社のお客様がどういうカスタマージャーニーをたどっているのかいうことと、担当者様の目線で何が今お客様のロイヤルティに影響を与えているのかについてしっかりと仮説を持っていただくことです。そうするとその後の調査や分析、改善施策が組み立てやすくなります。

山本:お客様のカスタマージャーニーを正確につかむのは、かなり難しいのではないでしょうか?

須藤氏:そうですね。なのでアンケートのお客様の声からヒントを得て作り直していきます。お客様はそんなところを重視していたんだと発見することもよくあります。たとえば通販サイトの場合では、「送られてきたときの梱包が丁寧なのが良かったです」や「梱包が雑で嫌でした」のようなコメントがあるとすると、カスタマージャーニーの中に「梱包」を加える、といった具合です。そうすると次回の調査では、梱包について広くきちんとお客様に聞くことができ、どう思われているのか、CX全体にどういう影響を与えているのかが分析できます。

山本:調査を繰り返して都度改善を進めていくということかと思いますが、実際どのぐらいの頻度で調査されることが多いですか?

須藤氏:ビジネスモデルによりますが、近年は頻繁に調査するケースが多くなっています。ネット通販やWEBサービスでは、アンケートにご協力くださいとポップアップで表示させたり、購入完了メールに回答用のURLを掲載したりします。そうやって調査をし続けることでNPS®の点数が日々どう変わっていくのかをモニタリングする会社も珍しくありません。

山本:継続して集計をすることで、何か改善施策をした前後の状態を正確に比較できるということですね。

須藤氏:そうです。WEBビジネスに限らず、小売や飲食などの店舗ビジネスでも、テーブルの上の注文用タブレットにアンケートを表示させたり、レシートにアンケート回答用QRコードを印字したりして継続的に回答を受け付けて、施策を行った前後のNPS®の変化を知ることができます。それによってCX改善の精度が高くなり、ロイヤルカスタマーの育成やLTVの向上が可能になります。

山本:ありがとうございました。

インタビュー後編では、引き続き須藤様にCXを活用して売上を伸ばした企業の事例や、CXMの将来像などを聞きました。ぜひ続けてお読みください。

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ネット・プロモーター® 、ネット・プロモーター・システム® 、ネット・プロモーター・スコア®及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。 eNPS℠はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。

 

図書印刷のCX(顧客体験)改善支援サービス

図書印刷では、顧客体験に関する「調査」から、調査結果をもとにした「戦略策定」、最終的なアウトプットとしての「施策の実行・運用」まで、ワンストップで支援を行っています。オンライン・オフラインを問わずコミュニケーション施策の実行と、継続的なPDCAまでまるごとお任せいただける点が特長です。詳しくは以下のページよりご確認ください。

顧客のロイヤルティを上げるCX(顧客体験)改善支援サービス|図書印刷

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プロフィール
須藤 勇人(すどう はやと)氏
株式会社Emotion Techマーケティング部 部長

大阪大学法学部卒業後、ソフトバンクグループ人事部門にて人事業務に従事。その後、IoTメディア・モバイルコマース領域にて起業、資金調達の実施などを経て現職。 株式会社Emotion Techにおいては、マーケティング部門及びHR事業領域の責任者として、企業のお客様評価や従業員評価向上を推進。コロナ自粛中に自転車通勤をはじめ、週2〜3回の出勤時は片道40分の自転車通勤でカラダを動かしているという。

山本 航大(やまもと こうだい)
図書印刷株式会社 デジタルマーケティング営業部

2014年図書印刷入社。代理店や大手携帯キャリアを担当し、商業印刷物全般および店頭販促、キャンペーンなどの企画設計に従事。2019年1月より図書印刷のデジタルマーケティング営業部の立ち上げに参画。立ち上げ後は営業としてインサイドセールスの拡充に関わりながら、CRM/CXM領域の支援サービスを推進。

 

図書印刷のデジタルマーケティング支援サービス

図書印刷では、お客様に寄り添い、課題や外部環境を踏まえた上で、企業(またはブランド)の強み・特長を、データに基づいて洞察、咀嚼/翻訳し、課題解決へ向けた戦略プランの設計から運用までをお手伝いしております。WEBサイト/ECサイトの構築やデータ分析からWEB広告の企画・運用まで、幅広くおまかせいただけますので、少人数で成果を求められているご担当者様にお役立ていただけます。

図書印刷が描くDX時代のマーケティング透視図のページでは、当社の「デジタルマーケティング支援サービス」の導入企業のご担当者様や、デジタルマーケティング界の識者の方々へのインタビューを通じて得られた「生の声」を掲載。ぜひお客様のマーケティング活動にお役立てください。

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