インストラクショナルデザインとは、効率的で上手な教え方を体系的に考える方法です。インストラクショナルデザインが取り入れられている研修では、教える人の経験や勘に頼らず、研修の目的を達成することができるようになります。具体的にどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
研修の計画に関して、「何をどのように教えるか」がカリキュラムです。それに対して、カリキュラムを構築するための方法論がインストラクショナルデザインです。インストラクショナルデザイナーの仕事は、カリキュラムを効率的に教えるために、受講者の特徴や与えられた環境、リソースなどを考慮し、最も効果的で魅力的な教育方法を選択することです。そして実行と評価を繰り返すことで、研修の精度を高めていきます。
インストラクショナルデザインは、もともと米軍の兵士教育を効率よく進めるために開発されました。その後、企業内教育や高等教育の設計手法として米国を中心に普及しています。日本ではeラーニングが広まったことにより注目されるようになりました。
eラーニングには時間や場所を選ばず受講できるというメリットがありますが、指導者がその場にいるわけではありません。そのため、教材の選び方や授業の進め方、効果測定の方法などを、より綿密に計画する必要があります。そこでインストラクショナルデザインが用いられるようになったのです。
インストラクショナルデザインは、研修の「効率」「効果」「魅力」を高めるという3つの目的のために実施されます。
忙しい人でも短時間で効果が出る研修、隙間時間でできる研修など、研修に取り入れる教材や教え方を理論に沿って工夫することで、研修の時間短縮や効率化を目指します。
資格取得を目的とする研修であれば、受講後に受講者が試験に合格できる内容が期待されます。職場研修であれば、実際の業務のなかで学んだことが生かせなければ意味がありません。研修の効果を上げるために、あとに述べるADDIEモデルのような理論に沿った設計をします。
学ぶ楽しさや面白さの要素を研修に加えることで、受講者に「もっと学びたい」という意欲を与えます。
インストラクショナルデザインのモデルはいくつかありますが、最もよく知られているのがADDIEモデルです。Analysis(分析)、Design(設計)、Development(開発)、Implementation(実施)、Evaluation(評価)の段階に沿って研修を設計し、必要に応じて繰り返すことで、効果的で、効率のよい、魅力的な研修ができるようになります。
分析の段階では、研修の企画者が、研修を望んでいる部署や企業のニーズを把握することがポイントです。
どのような立場の人が受講するのか、研修の目的や必要なリソースなど、現状や課題をはっきりさせデータを集めます。例えば次のようなことを確認します。
設計の段階では、研修の企画者が研修の骨組みとなるアウトラインを考えます。分析結果に基づき、目標を達成するための最適なコース内容を設計します。「研修を終えた受講者は〇〇ができるようになる」という具体的な目標を設定し、それに沿ってどのようなコンテンツを用意するかなどを決めます。
分析から設計という段階を踏んでいれば、WEBを使った研修の場合に、プログラマーやWEBデザイナーなどに開発を依頼する際にも、分かりやすい要求仕様書を作成することができるようになります。
具体的には次のような内容を検討します。
開発の段階では、実際に学習ができる状態にするための準備をします。研修の企画者が中心となり、研修内容の理解と定着を図るプランを設定します。教材にグラフィックやオーディオ、ビデオ機材などを合わせることで、より具体的な研修内容となります。例えばWEBを使った研修なら、研修の企画者は、プログラマー、ビデオグラファー、オーディオタレント、エディターなどと連携し、臨場感のある研修を開発しますす。
実施の段階では、対象の部署や企業が実際の研修を実施します。
できれば本番前に、社内の上層部やマネージャー、モニター受講者を対象にテスト研修を実施して、研修を実際に行っても不備がないかを確認します。準備をしっかりと行い、研修をスムーズに実施します。
第2段階で設定した評価方法に基づいて、研修内容を評価します。アンケートなどにより受講者や関係者から以下のような内容についてフィードバックを受けます。
研修の企画者は、これらについて問題点を洗い出し、ADDIEの段階に沿って研修内容を見直します。改善サイクルを繰り返すことによって、教える側にも、受講者にも理想的な研修へと近づいていきます。
インストラクションデザインは、指導者や研修の企画者をはじめ「誰かに何かをうまく教えたい」と思っている人すべてに役立ちます。感覚や経験だけに頼らず、効率的、効果的、かつ魅力的に教えるために、ぜひ取り入れたい手法です。
参考: